2025年4月28日
1. はじめに ~アピアランスケアとは~
がんやその治療などによって外見に変化をきたすことは、患者様にとって大きなストレスとなります。疾患や治療に伴う外見変化によって、身体的・心理的・社会的な困難を感じておられる患者様やご家族に対して、包括的なアセスメントに基づき支援を行うことを「アピアランスケア」といいます。
分かりやすくいうと、アピアランスケアとは、見た目の変化に対する不安や悩みを軽減し、その人らしい生活をサポートする医療的・心理的アプローチのことを指します。
もちろん、治療で外見が変化したらアピアランスケアを行わないといけないということはありません。また、必ずしも、治療前と同じ姿に戻ることを目指すわけではありません。ご本人やご家族が、何か気になっていることがある、少しでも快適に治療を乗り切る方法を探したい、副作用が心配で治療に前向きになれないなどと思われる場合は、良い方法を一緒に見つけていきたいと思っています。
私は大学病院やその関連病院で、形成外科医として乳がん術後の乳房再建に取り組んできました。そのときに、患者様から化学療法に伴う脱毛や肌のくすみといったことに対する不安を伺う機会が多くありました。今はどこの施設でも脱毛が予想される場合はウィッグをご紹介したりサポートを行うよう努力してはいるのですが、患者様は、「混雑した外来でこんなことを聞いていいのかためらう」、「誰に聞いてよいのか分からない」といったお悩みをかかえておられることを感じました。
開院にあたり、見た目に分かる疾患の治療を専門にする形成外科ならではのサポートを広げていきたいと思っております。
本コラムでは、乳頭・乳輪の再建、眉毛・アイラインの再現のため、アピアランスケアの一つとして行っている医療アートメイクについてご紹介いたします。
2.医療アートメイクについて
アートメイクは、以前は個人のサロンなどでも行われていましたが、2005年に厚生労働省がアートメイクを正式に医療行為として正式に認定し、医師または医師の指示のもとに看護師が施術を行うことが義務付けられました。
医療アートメイクは専用のニードル(針)で皮膚の表面から 0.02~0.03 mm程度のごく浅い部分(表皮)に色素を浸透させ定着させる技術です。同じように針を使って色素を定着させるものにタトゥー(刺青)がありますが、タトゥーは皮膚の表面から2 mm程度の真皮層に色素を入れて半永久的に定着させるものです。アートメイクはより浅い表皮層に色素を入れますので、皮膚の新陳代謝によって少しずつ色が薄くなっていきます。
色素の定着には肌質によって個人差があるため、1回の施術で濃く色素を入れてしまうと修正ができないため、1回目は60%程度に仕上げ、2回目の施術で色調や、色ムラ、形の調整を行いながら完成させていきます。
3.乳頭・乳輪のアートメイク:再建手術を補完する「最後の仕上げ」
乳がん手術後の乳房再建は、現在は自家組織による再建とシリコンインプラントによる再建の両方ともに健康保険の適応で行うことができます。乳輪や乳頭を切除した場合は、乳輪乳頭を再建することもできます。手術で乳頭を再建する場合は、乳頭に当たる部分の皮膚を皮弁として挙上し丸めるように細工して再建したり、健側の乳頭を半分もらって移植したりします。乳輪の再建は脚の付け根の色素沈着のある皮膚をもらって移植したり、健側の乳輪の一部を移植したりすることがあります。ただ、手術の術式によっては、形は再建できても色は再建できないこともあります。また、手術してまで乳輪乳頭は再建しなくてよいという方もいらっしゃいます。
そのような場合の選択肢の一つに、乳輪乳頭のアートメイクがあります。手術で再建された乳輪乳頭の色調の調整の他、乳輪乳頭の再建を行っていない方にもアートメイクのみで色の濃淡をつけ乳輪乳頭があるように描くこともできます。
乳輪乳頭のアートメイクは、まず初回はカウンセリングのみ行い、納得いただけたら次回から施術を行っています。現在おかかりの主治医にご相談の上、当院の予約をお取りいただくようお願い申し上げます。当院は福岡大学病院や福岡山王病院など乳房再建を行っている施設と連携しています。お気軽にご相談ください。
4. 化学療法前後の眉毛・アイラインのアートメイク
化学療法(抗がん剤)の副作用によって、頭髪だけでなく眉毛やまつ毛が脱毛することがあります。特に眉毛は顔の印象を大きく左右するパーツです。眉を描いて乗り切る方も多いですが、完全に眉毛が抜けてしまうと、上手に描くのが難しいというお声をよく聞きます。眉ティントといって数日皮膚の色調が残る化粧品もありますので、完全に抜けてしまう前からそういうものを上手く利用されるのもおすすめです。そういったことがわずらわしいと感じる方は、事前にアートメイクをされるのもよいと思います。眉毛が抜けても眉を描いた状態が残りますので、お化粧をしなくても変化が少なくよかったとおっしゃる方が多いです。
また、化学療法が終了すると、毛が生えてきて元の状態に戻っていきますが、中には毛が少なくなったり毛質の変化を感じたりして、アートメイクを希望される方もいらっしゃいます。
当院では化学療法前後にアートメイクをされる場合は、アピアランスケアとして通常の料金より少しお安く施術を行っております。
化学療法中にアートメイクを行う場合は、白血球が下がっている時期を避けて行う必要がありますので、乳腺外科の主治医と相談の上、ご受診ください。
(1) 眉毛のアートメイク
毛並みを一本一本描く「毛並み技法」や、ふんわりと色をのせる「パウダー技法」など、自然な仕上がりを実現する技術が進化しています。治療中や治療後に行うことで、日々のメイクの負担を軽減します。
(2) アイラインのアートメイク
まつ毛が抜けることで目元がぼやけて見えることもあります。アートメイクによるアイラインは、目元を引き締める効果があり、表情に生き生きとした印象を与えてくれます。
5. まとめ
化学療法は、病気を治すためとはいえ副作用に不安を覚える方も多いと思います。見た目の変化は心理的に影響が大きいため、自分らしく快適に過ごせるためのサポートは治療を乗り切るための大きな力となります。
当院では、医療アートメイクの専門スタッフが在籍し、患者様一人ひとりの背景や思いに寄り添った施術を提供しています。ご相談だけでも構いません。どうぞお気軽にお問い合わせください。