2025年4月10日
眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)は、上まぶたが通常よりも下がり、ものが見にくくなる疾患です。加齢とともに進行することが多いため、最近は手術を希望される患者さんが増えています。眼瞼下垂症の原因、症状、診断方法、治療法などについて詳細に説明します。
1. 眼瞼下垂症とは
眼瞼下垂症とは、上まぶたが正常よりも下がる状態のことを指します。上まぶたの下垂により、まぶたを重く感じたり、視界が部分的に遮られものが見にくくなったりします。また、患者は視界を改善するために顔を上に向けたり、眉毛を持ち上げたりすることが多く、その結果、額のシワや頭痛、肩こり、眼精疲労を引き起こすといわれています。
2. 眼瞼下垂症の原因
眼瞼下垂症の原因は多岐にわたります。以下に代表的な原因を挙げます。
(1) 加齢
加齢によって、上まぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)が弱くなったり、筋肉のすじ(腱膜)が緩んだりすることが原因となります。特に40代以降の人々に多く見られる症状です。
(2) 先天性
先天的な眼瞼下垂症は、眼瞼挙筋やそれを支配する神経の働きが弱いことが原因で起こります。両側の場合と片側の場合があります。
(3) 外傷
外的な衝撃や事故、手術の際にまぶたの筋肉や神経が損傷を受けることがあります。例えば、眼瞼下垂症は眼瞼周辺の外傷や目の手術後に発症することがあります。
(4) 神経学的疾患
神経や筋肉に影響を与える疾患によって眼瞼下垂症を発症することもあります。例えば、上位の交感神経系が障害されることで縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹を生じるホルネル症候群や重症筋無力症(MG)などがあります。
(5) 筋肉の疾患
眼瞼挙筋が正常に機能しない場合、まぶたが下がりやすくなります。これには筋ジストロフィーやその他の筋肉の障害が関与することがあります。
(6) 糖尿病
糖尿病に伴う眼疾患では、糖尿病網膜症の頻度が高く、日本人の失明の原因としては第2位を占めています。高血糖が続くことで、全身の神経や血管がダメージを受けるためですが、網膜症以外にも、動眼神経がダメージを受けることで眼瞼下垂症を引き起こす場合があります。
3. 眼瞼下垂症の症状
眼瞼下垂症の最も顕著な症状は、上まぶたが下がることです。視野が狭まりものが見にくくなることで、QOL( Quality of life:生活の質)が低下します。
- 視界の障害:眼瞼下垂症が軽度であれば、視界に多少の影響しかないこともありますが、重度になると、角膜の上半分が隠れ、視界が狭くなることもあります。
- 額のしわ:上まぶたが上がらないと、額に力を入れて眉毛を持ち上げてものをみるようになります。そのため、額に横ジワが生じることや、眉毛と目の距離が離れるといった顔貌の変化の原因になります。
- 肩こり、頭痛、眼精疲労:まぶたが下がると、額の筋肉を使って眉毛を持ち上げてものをみたり、顎をあげてものをみたりして補うようになります。目を開けるために常に余分な力を使う必要があり、その結果、眼精疲労や頭痛、肩こりを生じることがあります。
- 顔の印象の変化:顔が疲れて見える、あるいは驚いた表情に見えることがあります。
4. 眼瞼下垂症の診断方法
眼瞼下垂症の診断には、いくつかの検査が行われます。通常は、医師による視診や問診に加えて、以下のような検査が実施されることがあります。
(1) 眼瞼の状態の確認
視覚的にまぶたの下垂状態を確認します。まぶたの開き具合や眼瞼挙筋がどの程度動いているかを測定し、左右差を確認します。額の筋肉で代償しているかなどをみて総合的に判断します。
(3) 筋肉や神経の検査
眼瞼下垂を引き起こす全身的な疾患や神経や筋肉の異常が疑われる場合は、専門の科にご紹介して神経や筋肉の状態を調べることがあります。
5. 眼瞼下垂症の治療方法
眼瞼下垂症の治療方法は、その原因や症状の重症度に応じて異なります。治療は主に以下の方法が考慮されます。
(1) 保存療法
軽度の眼瞼下垂症では、特別な治療が必要ない場合もあります。患者が症状を緩和できる方法として、眼精疲労を防ぐための休息や、眼鏡を使用して視界を改善することが有効です。
(2) 外科的治療
眼瞼下垂症が中等度から重度で、日常生活に支障をきたす場合、手術が必要になることがあります。代表的な手術方法は以下の通りです。
- 眼瞼挙筋前転術:眼瞼挙筋が弱くなったり、挙筋腱膜が薄くなったり後退している場合は、皮膚が被さっているわけではないのに黒目が隠れている状態となります。この場合は、二重瞼の線の部分を切開し、挙筋腱膜を前方に引っ張って固定することで、まぶたを開きやすくする手術を行います。
- 余剰皮膚切除術:加齢によって余分な皮膚がたるんで被さって視野を妨げている場合は、たるんだ皮膚を切除することで目元を引き締めることができます。二重瞼の部分や眉毛の下で皮膚を切除し縫い縮めます。たくさん皮膚を切除する場合は、眉毛の下に沿って皮膚を切除することが多いです。
- 筋膜移植術:先天性眼瞼下垂症では眼瞼挙筋の機能が非常に弱く、眼瞼挙筋を前転しても瞼が開かないことがあります。その場合、大腿から筋膜をとって、前頭筋と瞼板(まぶたにある硬い組織)をつなぐよう移植します。前頭筋を利用してまぶたを持ち上げる方法です。
(3) ボトックス治療
眼瞼下垂と思って受診される患者さんの中には、眼瞼痙攣といって瞼を閉じる筋肉が強く収縮してしまい瞼が開かない疾患が隠れていることがあります。眼瞼痙攣の場合は、瞼を閉じる筋肉である眼輪筋にボトックスを注射することで弛緩させ、眼輪筋の過剰な収縮を抑えることがあります。
6. 眼瞼下垂症の予防と生活習慣
眼瞼下垂症を完全に予防する方法はありませんが、いくつかの生活習慣が症状の悪化を防ぐのに役立つことがあります。
- まぶたをこすらない:アレルギー性結膜炎やアトピー性皮膚炎などで瞼をこすることが多い方は眼瞼下垂症になりやすいといわれています。できるだけ瞼をこすらないことが重要です。アイメイクを落とす際も、専用のリムーバーを使用し摩擦を避けて優しく落とすように注意しましょう。
- ハードコンタクトレンズの長期装用を避ける:ハードコンタクトレンズの長期装用で腱膜性下垂になることが知られています。まばたきの度に、まぶたの筋肉にわずかな摩擦が生じたり、外す際に瞼を引っ張ったりすることが原因といわれています。ハードコンタクトレンズには乱視の矯正ができる、酸素透過性がよいなどの良さがありますが、できれば長期間の装用は避ける方がよいでしょう。
7. まとめ
眼瞼下垂症は、視覚的な機能面の影響だけでなく、整容面にも影響します。年齢のせいだからとあきらめておられる方も多いですが、適切な治療により、生活の質が改善する可能性があります。手術によって、まぶたが軽くなりものが見やすくなるだけでなく、肩こりや頭痛の改善、若々しい顔貌になるといった効果が期待できます。眼瞼下垂症の治療には個別のアプローチが必要であり、専門医と相談しながら最適な治療法を選ぶことが大切です。